硝酸(HNO₃)とは
硝酸は消防法上の第6類(酸化性液体)です。それ自体は通常燃えませんが、強い酸化力をもち、可燃物との混触で火災を助長するおそれがあります。厚生労働省のモデルSDSでも、酸化性液体・金属腐食性物質として分類されています。
(1) 第6類酸化性液体の指定数量は 300 kg です。e-Gov「危険物の規制に関する政令」別表第三
乙6で実際に問われる基本性状
消防試験研究センターの乙種第6類公開問題では、硝酸について、色、熱・光による分解と変色、水との混和性、銅・銀との反応、濃硝酸による鉄・アルミニウムの不動態化が同じ問題で問われています。したがって、この5点は優先度が高い範囲です。
- (2) 硝酸は無色〜黄色の液体です。厚生労働省「硝酸 SDS」第9項
- (3) 硝酸は水と任意の割合で混和します。厚生労働省「硝酸 SDS」第9項 消防試験研究センター「乙種第1・2・3・5・6類公開問題」問32
- (4) 硝酸は光の影響や加熱によって分解し、窒素酸化物(NOx)を生じます。厚生労働省「硝酸 SDS」第10項 消防試験研究センター「乙6公開問題」問32
- (5) 分解で生じる窒素酸化物が溶け込むと、硝酸は黄色〜褐色を帯びることがあります。厚生労働省「硝酸 SDS」第9・10項
- (6) 硝酸は酸化作用により銅や銀を溶かします。消防試験研究センター「乙6公開問題」問32
希硝酸と濃硝酸の違い
試験で特に重要なのは、金属との反応が濃度によって変わる点です。
| 比較 | 希硝酸 | 濃硝酸 |
|---|---|---|
| 酸性 | 強酸性 | 強酸性 |
| 酸化性 | 強い | 強い |
| 鉄・アルミニウム | 腐食・溶解が進む | 不動態を形成して反応が抑えられる |
| 銅との代表的反応で生じる窒素酸化物 | NO(一酸化窒素) | NO₂(二酸化窒素) |
(7) 濃硝酸では鉄やアルミニウムが不動態となり、腐食反応が著しく抑えられます。 消防試験研究センター「乙6公開問題」問32 総務省消防庁「鉄(粉)」
なぜ濃い硝酸の方が鉄・アルミニウムを溶かしにくいのか
「濃い酸だから必ず強く溶かす」とは限りません。濃硝酸の強い酸化作用により金属表面に保護性のある皮膜が形成され、内部の金属と硝酸との反応が抑えられます。この状態が不動態です。
J-STAGE掲載の高純度アルミニウム・鉄の腐食研究では、鉄の腐食量は硝酸濃度37〜40%付近で大きく、55%以上では急激に減少し、不動態化によるものと説明されています。試験では具体的な濃度境界の暗記より、「希硝酸では溶け、濃硝酸では不動態」という対比を優先します。日本金属学会誌「硝酸濃度による高純度アルミニウムと鉄の腐食速度」
銅との反応:NOとNO₂
(8) 高校化学で扱う代表反応では、銅と希硝酸の反応では主に NO(一酸化窒素)、濃硝酸では主に NO₂(二酸化窒素)が生じます。東北大学金属材料研究所「腐食の解説」
火災予防・消火での注意
(9) 硝酸は強い酸化剤で、可燃性・還元性物質と激しく反応します。厚生労働省「硝酸 SDS」第2項・第10項
- (10) 硝酸のSDSでは、大火災の消火方法として散水・噴霧水などが示されています。厚生労働省「硝酸 SDS」第5項
- (11) 火災時でも硝酸の容器内へ水を入れません。厚生労働省「硝酸 SDS」第5項
- (12) 硝酸の火災では、棒状注水を避けます。厚生労働省「硝酸 SDS」第5項
貯蔵・取扱い
- (13) 硝酸は換気のよい場所で取り扱います。厚生労働省「硝酸 SDS」第7項 消防試験研究センター「乙6公開問題」問28
- (14) 硝酸は皮膚・眼への接触を避け、薬傷防止のため適切な保護具を用います。厚生労働省「硝酸 SDS」第4・8項 消防試験研究センター「乙6公開問題」問28
- (15) 硝酸は反応しやすい有機物や還元性物質などから隔離します。厚生労働省「硝酸 SDS」第7・10項 消防試験研究センター「乙6公開問題」問28
- (16) 硝酸の少量漏えいでは、SDSに従って適切な中和・回収方法を選びます。厚生労働省「硝酸 SDS」第6項 消防試験研究センター「乙6公開問題」問28
- (17) 銅製容器を硝酸の一般的な貯蔵容器として用いるのは不適切です。消防試験研究センター「乙6公開問題」問28 厚生労働省「硝酸 SDS」第10項
その他の性状
- (18) 金や白金は、硝酸単独では溶けにくい金属です。日本女子大学「王水と妃水」 厚生労働省「白金 SDS」第9項
- (19) 可燃物・禁忌物質や熱源から離し、耐腐食性の容器を用いて、密閉して換気の良い場所に保管します。厚生労働省「硝酸 SDS」第7項
- (20) 硝酸が皮膚に付着すると黄変を伴う重い化学熱傷を起こすことがあります。厚生労働省「硝酸 SDS」第4項
試験での押さえ方
- 硝酸は不燃性だが強酸化性。
- 無色系の液体で、熱・光で分解して変色する。
- 水と任意の割合で混合する。
- 銅・銀を溶かす。
- 濃硝酸 + 鉄・アルミニウム → 不動態。
- 銅との代表反応は 希硝酸 → NO、濃硝酸 → NO₂。
- 貯蔵・取扱いでは換気、禁忌物質との隔離、容器材質を区別する。
- 第6類一般は水系消火剤が基本だが、物質ごとの水反応性と消火方法を確認する。
出典・参考(2026-09-03確認)
- 一般財団法人消防試験研究センター「乙種第1・2・3・5・6類 危険物取扱者試験 公開問題」問28・問29・問32
- https://www.shoubo-shiken.or.jp/content/kikenbutsu_otsu.pdf
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:硝酸」モデルSDS
- https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7697-37-2.html
- 総務省消防庁 危険物情報「鉄(粉)」
- https://internal.fdma.go.jp/kiken-info/material/m_01693.html
- 日本女子大学 化学生命科学科「王水と妃水」
- https://mcm-www.jwu.ac.jp/~bussei/kagaku_column/%E3%80%8C%E7%8E%8B%E6%B0%B4%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%A6%83%E6%B0%B4%E3%80%8D/
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:白金」モデルSDS
- https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0892.html
- 日本金属学会誌「硝酸濃度による高純度アルミニウムと鉄の腐食速度」
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jinstmet1952/63/6/63_6_776/_pdf/-char/ja
- 東北大学金属材料研究所「腐食の解説」
- https://www.trc-center.imr.tohoku.ac.jp/_userdata/mono56_1.pdf
- e-Gov法令検索「危険物の規制に関する政令」別表第三
- https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306/