保安距離
保安距離とは、製造所等で火災・爆発が起きたときに周囲の人と建物を守るため、製造所等の外壁(またはこれに相当する工作物の外側)から、住居・学校・病院などの保護対象物までに確保する距離です。製造所の標準基準は危険物の規制に関する政令第9条第1項第1号に定められ、屋内貯蔵所・屋外タンク貯蔵所・屋外貯蔵所は各条でその例によるものとされ、一般取扱所は政令第19条第1項で準用します。
ただし、危険物の種類・施設形態・特例基準によって、標準の保安距離がそのまま適用されない場合があります。まず標準基準を押さえ、その後に適用除外・緩和等の特例を区別するのが安全です。
「施設の外にある守るべき対象まで、どれだけ離すか」を決めるのが保安距離です。施設の周囲にあけておく空地は保有空地という別の制度なので、混同しないでください。
距離の測り方
- (1) 保安距離は、保護対象物から当該製造所等の外壁又はこれに相当する工作物の外側までの間に確保する。敷地境界線やタンクの中心から測るのではない。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号」
- (2) 特別高圧架空電線に対してだけは、条文が明示的に「水平距離」と定めている。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ホ・ヘ」
- (3) 引火点を有する液体危険物の屋外タンク貯蔵所には、保安距離とは別に、敷地境界線から屋外貯蔵タンクの側板までの距離(敷地内距離)が必要になる場合がある。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第11条第1項第1号の2」
製造所の標準的な保護対象物と保安距離
| 保護対象物 | 確保する距離 |
|---|---|
| 住居の用に供する建築物その他の工作物(製造所の存する敷地と同一敷地内のものを除く) | 10m以上 |
| 学校、病院、劇場その他多数の人を収容する施設で総務省令で定めるもの | 30m以上 |
| 重要文化財・重要有形民俗文化財・史跡・重要な文化財に指定された建造物、旧重要美術品等保存法により重要美術品と認定された建造物 | 50m以上 |
| 規則第12条第1項各号の高圧ガス等の施設(不活性ガスのみを貯蔵・取り扱うものを除く) | 原則20m以上 |
| 使用電圧が7,000Vを超え35,000V以下の特別高圧架空電線 | 水平距離3m以上 |
| 使用電圧が35,000Vを超える特別高圧架空電線 | 水平距離5m以上 |
- (4) 住居は10m以上。ただし製造所と同一の敷地内にある住居は対象外である。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号イ」
- (5) 学校、病院、劇場その他多数の人を収容する施設で総務省令で定めるものは30m以上である。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ロ」
- (6) 重要文化財等の建造物は50m以上で、製造所の標準基準に掲げる建築物等の距離では最大である。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ハ」
- (7) 規則第12条第1項各号に掲げる高圧ガス等の施設は原則20m以上である。ただし、政令第9条第1項第1号ニは不活性ガスのみを貯蔵・取り扱う施設を除外している。また規則第12条第1項は、対象施設の配管のうち製造所と同一敷地内にあるものを対象から除く。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ニ」 e-Gov「危険物の規制に関する規則 第12条」
- (8) 特別高圧架空電線は、7,000Vを超え35,000V以下が水平距離3m以上、35,000Vを超えるものが水平距離5m以上である。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ホ・ヘ」
「30m」に含まれる施設の範囲(規則第11条)
政令が「総務省令で定めるもの」と委任した先が規則第11条です。範囲を確定しておきます。
| 区分 | 該当するもの | 収容人員の要件 |
|---|---|---|
| 学校 | 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校 | なし |
| 病院 | 医療法第1条の5第1項の病院 | なし |
| 興行場等 | 劇場、映画館、演芸場、公会堂その他これらに類する施設 | 300人以上収容できるもの |
| 福祉施設等 | 児童福祉施設、身体障害者社会参加支援施設、保護施設(授産施設・宿所提供施設を除く)、老人福祉施設・有料老人ホーム、母子・父子福祉施設、障害者職業能力開発校、特定民間施設、介護老人保健施設・介護医療院、障害福祉サービス事業(生活介護・自立訓練・就労選択支援・就労移行支援・就労継続支援)の用に供する施設、障害者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム | 20人以上収容できるもの |
- (9) 30mの対象となる「学校」は幼稚園から高等専門学校までで、大学・短期大学・専修学校・各種学校は規則第11条第1号の列挙に含まれない。また同条第2号が対象とするのは医療法上の「病院」であり、診療所は含まれない。e-Gov「危険物の規制に関する規則 第11条」
標準基準で保安距離を要求する施設区分
政令の標準基準では、次の5施設区分で第9条第1項第1号の保安距離が直接規定されるか、その例による・準用する形になっています。
| 施設 | 根拠 |
|---|---|
| 製造所 | 政令第9条第1項第1号 |
| 屋内貯蔵所 | 政令第10条第1項第1号(製造所の例による) |
| 屋外タンク貯蔵所 | 政令第11条第1項第1号(製造所の例による) |
| 屋外貯蔵所 | 政令第16条第1項第1号(製造所の例による) |
| 一般取扱所 | 政令第19条第1項(第9条を準用) |
ここでいう「5施設区分」は標準基準の整理です。「該当区分なら例外なく必ず10m・20m・30m・50m等をそのまま適用する」という意味ではありません。たとえば、吹付塗装作業や洗浄作業を専ら行う一定の一般取扱所は、規則第28条の55第2項・第28条の55の2第2項等の特例要件を満たすと、政令第19条第1項で準用する第9条第1項第1号が適用されません。e-Gov「危険物の規制に関する規則 第28条の55・第28条の55の2」
一方、次の施設区分には、政令第9条第1項第1号型の保安距離は標準基準として置かれていません。
| 施設 | 標準基準上の扱い |
|---|---|
| 屋内タンク貯蔵所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 地下タンク貯蔵所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 簡易タンク貯蔵所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 移動タンク貯蔵所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 給油取扱所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 販売取扱所(第一種・第二種) | 第9条第1項第1号型の保安距離なし |
| 移送取扱所 | 第9条第1項第1号型の保安距離なし。ただし地上に設置する配管について、規則第28条の16第2号が住宅・学校・病院・鉄道等に対する告示所定の水平距離を要求する |
- (10) 試験上はまず、製造所・屋内貯蔵所・屋外タンク貯蔵所・屋外貯蔵所・一般取扱所を標準基準で保安距離を要求する5施設区分として整理する。その上で、危険物の種類や一般取扱所の形態による特例があることを区別する。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条・第10条・第11条・第16条・第19条」
緩和できる場合とできない場合
- (11) 住居(イ)・多数収容施設(ロ)・重要文化財等(ハ)については、不燃材料で造った防火上有効な塀を設けること等により市町村長等が安全であると認めた場合、市町村長等が定めた距離を保安距離とすることができる。この政令第9条第1項第1号ただし書はイ〜ハに対する緩和であり、ホ・ヘの特別高圧架空電線には及ばない。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ただし書」
- (12) 高圧ガス施設等(ニ)については、規則第12条第2項本文が20m以上を原則とし、同項ただし書が、耐火構造の塀の設置その他の防火上有効な措置を講じた場合に、告示で定める要件を満たす距離まで短縮できる特例を定めている。この緩和は、2026年4月4日施行の政令・規則・告示改正で導入された。現行の告示第2条の3は、製造所等と高圧ガス等の施設について、相互の火災の輻射熱や爆発の爆風圧によって外壁・保安設備等に支障が生じないことなどを要件としている。なお、告示第2条の3は2026年6月29日の告示改正で後続修正され、現在は規則第12条第2項に加えて高引火点危険物の製造所特例である規則第13条の6第3項第1号ニも参照しているため、一般則と高引火点危険物の特例を混同しない。e-Gov「危険物の規制に関する規則 第12条」 総務省消防庁「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示 第2条の3」 総務省消防庁「消防危第56号 危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令等の公布について」
- (13) 特別高圧架空電線(ホ・ヘ)については、政令第9条第1項第1号ただし書の緩和対象に含まれない。e-Gov「危険物の規制に関する政令 第9条第1項第1号ホ・ヘ」
試験での頻出ポイント
- 製造所の標準基準では、住居10m・多数収容施設30m・重要文化財等50m、高圧ガス等20m、特別高圧架空電線3m/5mを対応させます。高圧ガス等20mには「不活性ガスのみ」の施設を除く条件があることまで押さえます。
- 「保安距離が必要な施設はどれか」という標準基準の問いでは、地下タンク貯蔵所・移動タンク貯蔵所・給油取扱所を混ぜた選択肢に注意します。まず5施設区分を押さえ、特例を問う設問では一般取扱所等の適用除外を別に判断します。
- 「大学は規則第11条の学校に含まれるか」「同一敷地内の住居にも10m必要か」は、いずれも含まれない/不要です。
- 距離の起点を「敷地境界線」「タンクの中心」と入れ替えた選択肢はひっかけです。政令第9条第1項第1号の起点は外壁又はこれに相当する工作物の外側です。
- 保安距離と保有空地を入れ替えた選択肢もひっかけです。「距離=外の保護対象物まで」「空地=施設の周囲にあける」と区別しましょう。
出典・参考
- e-Gov法令検索 危険物の規制に関する政令
- e-Gov法令検索 危険物の規制に関する規則
- 総務省消防庁 危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示
- 総務省消防庁 消防危第56号 危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令等の公布について(令和8年4月3日)
- 総務省消防庁 消防危第63号 危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令等の運用について(令和8年4月3日)
- 総務省消防庁 消防危第156号 危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令等の公布について(令和8年6月29日)
- 総務省消防庁 法令・通知等